いろいろ空想してそれを文字にしています。haiku、10行の話、空想レシピなど。
by 空想家sio


鹿埜類詩集2 【ストレンジ・猫】

 【ストレンジ・猫】(1stアルバム「幻燈会」より)

   奇妙な猫に会ったんだ
  いつものバス停で
  バスに乗って街へ行くのだと言う
  奇妙な猫が言うことには
  ぼくらは透明な膜に守られ
  日々、退化しているのだという
  猫はそう言ってあくびした


  奇妙な猫に会ったんだ
  毛並みは上等だ
  実は金持ちの息子なんだと言う
  奇妙な猫が言うことには
  ぼくらはバリケードを突破して
  日々の向こうへ行かねばならない
  死を思えば、なんでもできるのだ

  アジテーション!レボリューション!
  アジテーション!レボリューション!

  奇妙な猫はいつまでも
  バスに乗らなかった。
  最後のバスが出ても、そこを立たなかった。
  奇妙な猫は、ポケットから
  つぶれたクリームパンを出して
  日々の糧を得るのは大変だ、
  餓死は辛いのだ、とぼくにそれを半分くれた

   アジテーション!レボリューション!
  アジテーション!レボリューション!

b0312706_21300062.jpg

 HP「鹿埜類幻燈博覧館」管理人鴉氏による、注釈。


  鹿埜類のファーストアルバム「幻燈会」において、
  一番センセーショナルだったのは、
  アルバムの2曲目を飾った
  「ヘンゼル1986」だった。
  満を持して3枚目のシングルとしてリリースされ、
  ドラマの主題歌にもなった。
  (今、そのドラマは主演女優がドラッグ所持で
  逮捕されたことで再放送は控えられている)
  確かに「ヘンゼル1986」は
  その過激な歌詞においても
  鹿埜類の黒づくめの衣装と
  破壊的なピアノ演奏においても衝撃的だった。
  が、それは多分に演出的で
  人によっては鼻白むこともあっただろう。
  実は、このわたしもそのひとりだった。



  (テレビのランキング番組で見た鹿埜類は、
  テレビ局が天井から降らせた、ちぎったパンに
  見立てた紙きれをピアノの鍵盤から拾いながら、
  一心に、「ああ、今夜ぼくは棄てられた」と歌っていた。
  わたしはそこに過剰な演出を感じ、
  鹿埜類という17才の少女を僅かに軽蔑した。
  あの時の鹿埜類はまるきり無防備で、
  奇妙なアイドルと作られようとしていた)


 
 
 しかし、その後わたしの鹿埜類への評価は一変する。
  この「ストレンジ・猫」を聞いたからだ。 
  その頃わたしは鹿埜類よりも2才年上の大学生で、
  あの頃でいうところの「レンタルレコード
  &CDショップ」でアルバイトをしていた。
  キングクリムゾンなどの洋楽ファンであったわたしは
  鹿埜類のアルバムは客に貸すことはあっても
  聞くことは無かった。
  が、ある日、客が
  「このCD、7曲目、飛びますよ」と言い、
  それが「ストレンジ・猫」だったのだ。

  

  
エッジの聞いたギターで始まるこの曲は、
  このアルバム内で鹿埜類が唯一
  ピアノを弾かずに歌っている。
  ボーイソプラノを思わせる声の鹿埜類が、
  間奏のギターの、爆音に対抗するように
  アジテーション!レボリューション!を叫び、
  その後、発情期の猫のごとく短く鳴く
 (鹿埜類は猫の鳴き声がすこぶる上手だった)
  声を聞いたとき、わたしは
  rockアーティストとしての
  彼女を「発見」したのだった。

 
 
  
【ストレンジ・猫】は鹿埜類も気に入っていたらしく、
  よくリサイタルで歌った。
  後に【鹿埜類】の保護者兼夫となった、
  ギタリスト岸田蒼汰を従え、何度もシャウトした。
  (実に気持ちよさそうだった)
  鹿埜類自身は、ベストアルバム「鹿埜類」の
  ライナーノーツでこの曲についてこう短く書いている。


 
 
「歌詞を書く愉しさを知ったのは、この曲で、でした。
  この奇妙な猫は今もぼくのこころに住み着き、
  時折、ポケットにクリームパンを入れて
  バス停でぼくを待っているのです。
  まだ革命を信じているのです」


 
  
餓死は辛いのだ、と歌った鹿埜類が
  実は、深刻な拒食症を患っていた、と知ったのは、
  鹿埜類が45才でその命を閉じてしまった後であった。


 
  
26才で、突如と音楽活動から遠ざかり、
  わたしたちの前から姿を消した鹿埜類が、
  夫となった岸田蒼汰の献身的な保護の元
  それから20年生き伸びられたことを
  今なら、感謝すべきだろう。

  
  
ちなみに、無類の猫好きだった鹿埜類が
  命を閉じる直前まで可愛がっていた猫の名は
  【クリーム】だったという。 


 HP【鹿埜類幻燈博覧館 鴉随想より】
       




  
   
  
 

[PR]
by houki666 | 2014-01-25 22:40 | 鹿埜類詩集(吟遊詩人)
<< 探偵フランネル(10行de話) ふくろうのグラウコーピスくん(... >>