いろいろ空想してそれを文字にしています。haiku、10行の話、空想レシピなど。
by 空想家sio


欲望には忠実に(10行DEお話・番外編)

なぜわたしは、毎日仕事の帰りに
書店に寄ってしまうのだろう。
島崎奈央は改めて考えてみた。

毎日本を買うわけじゃない。
ただ書店のなかをぐるりと一回りして
新しい本があればそれを手に取り、
見慣れた本にはちらりと視線を送る。

そして満足して帰る。

今日は寄らないぞと思っても
駅前には3つも書店があって、
そのどれかに吸い寄せられてしまう。

それを友人の富田柚凛(ゆりん)に話してみた。
柚凛は無責任にも、こう分析した。

「あんた、男を探してんじゃない?」

わたしはびっくりした。

確かにわたしはここ数年、カレシがいない。
というか、この10年、仕事先以外では
男のひとと話したこともない。

しかし、それとこれとは違う気がした。

でも、柚凛は強固にそれが正解だといった。
柚凛は仕事をしながら、大学(心理学専攻)に通い、
独自の精神分析法を編みだそうと日々奮闘していた。

「だってさ、大昔に生きたオヤジたちが
男の視点で作った心理分析なんて
アタシたちに適うワケないじゃん」

それが柚凛のぶれることない主張だった。



その夜、夢を見た。

わたしは書店のなかを歩いていた。
いつも通り新しい本を手に取り、
見慣れた本にちらりと視線を送った。

本はすべて男の姿をしていた。

文学書は茶のツイードの背広を着て眼鏡をかけていた。
詩集は白い襟のシャツを着て長い指を顎にかけていた。
写真集は真っ黒なセーターを着て黒い髪を後ろに撫で付けていた。
新書は栗色のコートを着て、煙草を吸っていた。
音楽雑誌は色とりどりのチェックの衣装を着た5人組だった。
漫画は男子校のひとクラス分だった。

目が覚めて、すぐに柚凛にメールをした。

柚凛はそれでいいのだ、と言った。

「それがあんたの欲望なのよ
欲望に忠実になること、それが正しい生き方よ」


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2年後、わたしは小さな書店を開いた。
わたしが気に入った本だけを売る、
新刊も扱う古本屋(セレクトショップ)だ。

予算不足で、駅から少し離れた
辺鄙なところに開店したのだが、
なぜかいまのところ繁盛している。


来店するお客さまは皆、女性で
店の中を一回りしながら、新しい本を手に取り、
見慣れた本にちらりと視線を送る。

そして、わたしに言う。

「今日はこのコを連れて帰るわ」
「あのヒトもいいわね」

彼女たちにも、見えているらしい。


先日、同業者の会があり、それに出席した。
隣に座った男性がわたしに言った。

「大変な目利きだそうですね」

わたしはうなずいた。

何しろ、わたしには見えているのだ。


60行DEおしまい)



※今日は10行×6の60行DE話となりました。










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by houki666 | 2014-01-29 10:20 | 10行de話(あなたの隣に)
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