いろいろ空想してそれを文字にしています。haiku、10行の話、空想レシピなど。
by 空想家sio


鹿埜類詩集6 【カラス】

カラス (3rdアルバム【睡眠窟】より)

黒いカラス
白いカラス
青いカラス
紺のカラス
ぼくはそのどれでもない。

夕暮れ時は
どのカラスも家に帰る
神社があるあの山
るるるるるる
ぼくはどこにも帰らない。

どこからか
カレーライスの匂いがする
ぼくは途方に暮れて
ゲームセンターの隅で
血まみれのゾンビを撃つのさ


誰かがぼくに声をかける
遊ばないか?
見れば制服を着たカラスだ。
山へ帰れとぼくは叱った。

どこからか
カレーライスの匂いがする
ぼくは途方に暮れて
蒼い猫のアパートへ行き
固まった背骨を休ませるのさ

【語り】
寒いなあ
火鉢など役に立たないよ
いつかお金を稼いだら
暖炉のある家を買おうね
それにしても寒いな
そばにいっていい?
カレーライスが食べたいねえ

黒いカラス
白いカラス
青いカラス
紺のカラス
るるるるるる
ぼくはどこにも帰らない


b0312706_12054690.jpg








HP【鹿埜類幻燈博覧館】管理人鴉氏による、注釈



今日は鹿埜類3rdアルバム【睡眠窟】より
【カラス】を取り上げる。

(このホームページをご覧の方だったら、
わたしが「鴉」と名乗っているのは
この曲が好きだからだ、と
思っていたことだろう。
もちろん、正解である)


さて、【カラス】という
シンプルなタイトルにして
7分20秒という、この長い曲は

フリージャズのようなアレンジを
岸田蒼汰(いわずと知れた後に
類の夫となったギタリスト)がほどこし、

そのアレンジのなかで類は、
自由に、ずっちゃずっちゃと
変則的なリズムでクラリネットを従え
ピアノを弾きまくり、

最後にはトランペットが
おもちゃのようなそれのような音で
カラスの鳴き声を永遠と模するという

(このトランペットを演奏しているのは
トランペット奏者として世界的に有名なKだ。
よく吹いてくれたものだと思う。
しかし彼のトランペットがこの曲に
何か、大きな世界観を与えたことは確かだ)

歌詞にはとても
似つかわない陽気さで満ちている。


わたしがこの曲に惹かれたのは
この陽気さだ。

太宰治の「右大臣実朝」に

「アルカルサハ、ホロビノ姿デアラウカ
人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」

という有名な一節があるが、

この曲を聴いた時、わたしはそれを思い出した。


アレンジミスではないかと思われるほどの
陽気な演奏を従えて歌われる、
鹿埜類が書いた歌詞は暗い。

暗いが、どこか明るさが漂っている。


寒い日暮れに、どこにも帰らないぼくは
神社がある山に帰るカラスを見、
カレーライスの匂いをかぎ、途方に暮れる。

ゲームセンターへ行き
血まみれのゾンビを撃ちまくり
遊ばないか?と声をかけてきたサラリーマンに
唾を吐き、火鉢のあるアパートで
固まった背骨を伸ばす。

火鉢にあたりながら、

お金を稼いだら
暖炉のあるうちに住みたいといい、
カレーライスが食べたいなあと
のんきに言うのだ。


この曲の終わりにある類の語りも
どこか昔話を読んでいるかのように
訥々と明るい。

(1stアルバムなどにあった
吐息まじりの語りではない)


そういえば、3rdアルバム【睡眠窟】は
不思議に明るい曲ばかりが並んでいる。

1 眠り少年
2 苔の恋愛
3 ウエハース泥棒
4 饑餓屋敷
5 インスタント・沼
6 TOBACCO
7 狼と冬菫
8 カラス
9 玻璃食堂
10 しっぽつきGIRL
11 雪解けの日、ぼくは


【饑餓屋敷】という暗い曲も

(とある異国の森の奥深くにある
忘れられた大屋敷に住む
青年テオの物語だ。

ある冬に彼は父親を殺し、
ある夏に母親が彼を殺そうとした。

そこは今饑餓屋敷と呼ばれ、
テオと母親をつなぐ牢獄となっている
という歌詞だ)

ビートルズの
フール・オン・ザ・ヒルを思わせる
牧歌的な曲調にバグパイプが使われ、

【しっぽつきGIRL】に至っては

(栗鼠の歌だ。栗鼠がどんぐりを集めている、
というそれだけの歌詞)

類が木琴を叩いている。

喜びの溢れた弾む音で
聴く方も愉しくなる。


このアルバムの名を冠した
リサイタルツアーで
久しぶりにファンに姿を見せた類は

(この頃、類はテレビ・雑誌に
一切出なくなっていた。
そのため、悪い噂もあった。
精神科に通っているだの、
堕胎してその予後が悪いだの、
そういう類いの噂が
泡のように生まれては
消えていった)

こころなしか全体的にふっくらとしていて

今までの類が着ていたのとは違う
袖のふんわりとした白いシャツと
耳が隠れるくらいまで髪が伸びていて

とても可愛らしく見えた。


このリサイタルツアーでの類は
よく喋り、よく笑った。

類は笑うとき、あはは、と笑った。

「あはは、何言ってるんだか」
と口に人差し指を当てて、笑った。

(以前の類は、決してそんな風に
笑わなかったと思う。
唇のはしをちらりと上げて
はあっとため息をつくように
小さく笑うだけだった)


この頃だろうか、類が「ぼく」と言わずに
「ジブン」と言うようになったのは。

(今にして思えば、この頃が
類が精神的に一番
安定していたのだろう)


ぼくがジブンとなり、
いつか「ワタシ」になる、

(つまり、鹿埜類が瀬野唯と統合される)

そんな予感が類にはあったのかもしれない。


アルバム【睡眠窟】の最後の曲
【雪解けの日、ぼくは】にその予感が
ちらりと見える。

類は、雪解けの日、ぼくはきみに
小さな薔薇を渡すだろう、と書いた。

それは類の「女性性」
だったかもしれない。


また、同じ曲の間奏で小さく

まぼろしの小さなあんよ
まぼろしの小さなおめめ、
おいで、おいで、

とハミングしたのは、
類の母性の目覚めだったのかもしれない、

と今となっては思う。


が、ファンの中には
類に以前のような
少年らしさを要求する者もいて、

(はすっぱな態度、口をゆがめた微笑み
細い黒いタイを締め、脚を広げて椅子に座った。
短く刈った髪をいつも無造作に
指でくしゃくしゃにしていた)

リサイタルの中途で
「類、帰ってきて」と叫ぶ者もいた。

その言葉がかかると
類は明らかに困惑をして、
耳にかかった黒い髪を
気を揉むように触っていた。


わたしとしても複雑だった。

このまま類が髪を伸ばし
薄化粧などをし始めたら
自分は【鹿埜類】に
興味を持ち得続けるだろうかと思った。

類が、恋愛の幸福を歌ったりしたら
それを聞き続けるだろうか、と思った。

(ファン(他者)というのは
なんと残酷なのだろうと思う)


そんなわたしたちの逡巡を
鹿埜類は敏感に感じ取ったのかもしれない。

次のアルバムである【十字塔】は
製作に4年を費やすこととなり、

その間に類はファンクラブ【苔類】の
編集者の質問にこう喋ったことがある。


ー製作は順調?

「順調とはいえない。
キブンの波が大きくて
曲を作るというところまで
行けない時期もあって・・・・」

ー類はキブン屋だもんね

「まあね。時々、鹿埜類を
辞めちゃおうかなと思ったりして」

ーえ?それは衝撃発言だよ

「ははっ、もちろん冗談だけど、・・・。
でも、いったん辞めて
バンドとか、組もうかな、と
思ったりすることもある。
バンド名はもう決めてあるの。
・・・カナリアっていうの
あ、これ、内緒だった」

ーますます衝撃発言だよ!
ねえ、それってマジメな話かい?

「ううん、ただの妄想」

ーあー、よかった。
ところで最近また男前になったね

「え?ああ、髪?
そうなの、金髪にしちゃった。
伸びてきたから、黒が鬱陶しくて。
似合うでしょ?」

ー個人的には一番好きだな
類はそういうのがホント似合うね

「まあね、どっか異質な感じが
ぼくには合うんだね
駅の改札を抜けて
地元の商店街を歩いてたら
おばちゃんにぎょっとされるような
そういうのが、ぼくに合うんだね」

ーあっ、類が帰ってきた。
ぼく、っていうの久しぶりに聞いた

「ははっ、ただいまです」


このインタビューから3年後
鹿埜類は鹿埜類のまま、
わたしたちの前から姿を消してしまった。

引退するとも、休むとも言わず
ただ無言のまま、消えてしまった。


去年の秋、鹿埜類の訃報を聞くまで
わたしは「カナリア」というバンドが
どこかで活動していないかと
インターネットや情報誌を時々探していた。

もしかしたら、類は名前を変え、
音楽を続けているのではないかと
夢想をしていたのだ。

しかし、その夢想は潰えた。


これを書くのは辛いが、敢えて書く。
多分、反論されるだろう。

が、ずっと思ってきたことだ。
だから勇気を出して、書く。


もしかしたら、鹿埜類を殺したのは
わたしたちファンであったのかもしれない。

彼女の変容を拒否したわたしたちは
この結末を望んでいたのではないか、と

鹿埜類が、愛したままの姿で
永遠に自分たちの記憶に残ることを
心の奥底で望んでいたのではないか、と

そう、思ってしまう。

そしてそれを鹿埜類は
理解していたのではないか、と。

だから、極めて自死に近いかたちで
逝ってしまったのではないか、と。

45才というまだ十分に
若さが残る年齢で、わたしたちのために
去って行ったのではないか、と。

(否、そんなことはない。
決して、そんなことはない!)



鹿埜類は暖炉のある家に住んでいたという。

それがわたしにとって慰めになっている。


(HP【鹿埜類幻燈博覧館】鴉随想より)












[PR]
by houki666 | 2014-02-11 20:42 | 鹿埜類詩集(吟遊詩人)
<< 夢と雪 (10行DE話) 嗚呼それは恋だったのだ、冬菫(... >>