いろいろ空想してそれを文字にしています。haiku、10行の話、空想レシピなど。
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遠野フランナ2
今朝、遠野フランナは
歯ぎしりをして、ある文章を読んだ。 それは今朝、アップされたあるブログの記事だ。 そこにはこうあった。 「なんだか分からないけど力が出ず 先週から、家に引きこもっています。 職場にも電話せず、ひたすらテレビを眺めて ため息ばかり。 本当のわたしってなんだろう? ぼろい縫製工場で1日働いて 口を聞くのは隣でミシンを踏んでいる、 付け睫毛収集家なんて自分を呼んでいる イタイ独身女と口の臭い工場長やら、 結局、貧しい(心も含めて)底辺のひとたち。 わたしはあんな職場にいるような人間じゃない。 心に何度も沸き上がってくるこの想いを大切にしよう 職場には当分行かないことにする」 遠野フランナは熱いコーヒーで わざと舌を焼き、 歯ぎしりをやめるため コレクションの付け睫毛を 1分46秒眺めてから、職場へと行った。 遠野フランナは縫製工場に勤めている。 この道15年の腕のいい職人だ。 大きな納期が近づいていて 職場は殺気だっている。 遠野フランナは隣の空いているミシンを眺める。 歯ぎしりの原因となったブログの記事を書いた ヨリコという女が踏んでいたミシンだ。 数年前、ヨリコは「これ、あたしのブログ 良かったら読んでね」と遠野フランナにメモを渡した。 それをすっかり忘れ、今朝あんな記事を書いたのだろう。 「あたしだってすっかり忘れてたわよ」 遠野フランナはミシンを踏みながら独りつぶやいた。 「でも、工場長が電話もメールも返事が来ない。 いったい檜葉ヨリコはどうしたんだろう、事故にでも あったのだろうか、心配だ、なんて言うから ブログをやっていることを思い出して読んでみたんだよ」 遠野フランナはスジばった自分の手の甲を見ながら 檜葉ヨリコという同い年の女のことを思った。 檜葉ヨリコ。既婚者、二人の子持ち。 夫の義母を時々病院へ連れて行き、実母とは不仲。 太り気味のお腹をきついガードルでへこませている。 ラルク・アン・シエルのハイドのファンで 工場のロッカーのドアの裏側にハイドの写真を貼っている。 夫に内緒のへそくりが50万円あるらしい。 「ふん」 遠野フランナは憤慨した。 お昼休みに工場を抜け出し ドラックストアで、新しく発売された 人気モデル【日芽】プロデュースの 付け睫毛を全種類買おうと決めた。 遠野フランナは帰宅し、 買った付け睫毛をコレクションケースに納め、 それを1時間以上眺めてから、 もう一度、檜葉ヨリコのブログを見てみた。 檜葉ヨリコは、午後の12時26分に (まさに遠野フランナが ドラックストアで付け睫毛を6種類 かごに入れている時間に) 小説家になろうと思う、と宣言していた。 幼い頃から物語を考えたり 文章を書くのが好きだった。 才能あるって友達にも言われたことがあるし、 このブログの読者さんにもそのようなことを わざわざコメントされたこともある と書いていた。 文学賞に応募する、と書いていた。 遠野フランナはコメントした。 「小説家に無事なれたら 工場にも来てください。 ハイドなる美しき雄兎のような 青年の写真もロッカーに貼ったままだし、 それにあなたのミシンの腕前は相当のものです。 時々、趣味として工場で働いてください 付け睫毛収集家(自称) 遠野フランナ」 翌日、檜葉ヨリコの ブログのコメント欄は閉じられた。 あるコメントがあり、 ひどい侮辱を受けたので、と 理由が書かれていた。 「ふん」 遠野フランナは憤慨し、 高額で買うのを躊躇していた フランス製の付け睫毛をネットで注文した。 あたしたちはいったいどこへ往くのだろう?と考えながら。 【FIN】
by houki666
| 2014-03-24 09:41
| 10行de話(あなたの隣に)
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