いろいろ空想してそれを文字にしています。haiku、10行の話、空想レシピなど。
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檜葉ヨリコ➀
このお腹の贅肉をなんとかしたい
檜葉ヨリコは二人の子どもと 会社員の夫をそれぞれ送り出した後、 朝食代わりのチョコエクレアを食べながら 真剣に考えていた。 パートとして働いていた縫製工場を 体調不良の名目でずるずると休み始めてから もう20日が過ぎていた。 上司からは、後どのくらいで体調が回復するか、 だいたいでいいからメドを示して欲しい それによって、パートの人員を増やすか、 現状でやるか、を検討しなければならない とメールが来ている。 後、どのくらいで体調が回復するか? そんなことは檜葉ヨリコにも分からなかった。 仮病だからだ。 でも、確かにそろそろ、 何らかの連絡しなければならない。 檜葉ヨリコの家では 檜葉ヨリコの10万円に満たないパート代も 家計運営には欠かせないものだった。 このまま自分が無収入でいれば だんだんと家計が苦しくなる。 子供たちの塾代も払えなくなるだろう。 檜葉ヨリコは口の端についたエクレアの中身である 黄色いカスタードクリームを指でぬぐった。 新しくパートを探すか? できれば華やかなところで働きたい。 エステサロンとか、おしゃれなcafeとか。 若い男の子のバイトもいて、 楽しくお喋りできるようなところもいい。 ダイニングバーといった感じの 飲食店はどうだろうか? 檜葉ヨリコはしばらく妄想にふけった。 ダイニングバーの調理場で 経営者である自分と 同い年くらいの男性と親しく話し、 酒や料理を取りに来た大学生の店員に にこやかに笑いかける自分を思った。 妄想のなかの檜葉ヨリコは 体重計に乗れば、48キロで、 体脂肪は20%代で今より5才若く見えた。 エクレアを食べ終え、檜葉ヨリコは妄想を終えた。 「わかっているって」 独り言が口をついて出た。 40才を過ぎている自分を 雇ってくれる華やかなシゴト場など ほぼ無いだろう。 もしあったとしても 新しい仕事場で 新人として教えを乞いながら 一から覚えるのは抵抗があった。 檜葉ヨリコは工場ではベテランだった。 ミシンの腕は良く、その仕事ぶりは 周りからも、上司からも信頼されていた。 「やっぱり戻るか」 檜葉ヨリコはふたつめのエクレアに手を伸ばした。 食べながら、算段した。 工場に再び行くとしたら、 20日の間についた腹の贅肉を なんとか少しでも減らしてからでしか行けない。 これでは元々ウエストがきつかった パートの制服のスカートは入らないだろう。 檜葉ヨリコはため息をついた。 昨夜、体重計に乗って驚いた。 20日間で4キロも太っていた。 確かにこの20日間、家族にも 体調不良を宣言し、ほとんど動かずに過ごした。 朝起きて、朝食を作り、洗濯を終えると 横になり、好きな甘い菓子を食べ、 夕方になるまでベッドの上で過ごしていた。 (夕食は簡単な総菜を近くのスーパーで買い それで済ましていた。家族は文句を言いながらも、 檜葉ヨリコの体調を気遣い、それを受け入れた。 工場の上司と同じように、ある一定の期間が過ぎたら 檜葉ヨリコの体調が回復すると思っているのだ) 昨夜風呂の脱衣場で 58キロという数字を目にし、 ほとんど動かなかったからといって たった20日でヒトはこんなにも 太ることができるのだろうか? 檜葉ヨリコは体重計を疑い、 何度も何度もその上に乗った。 しかし、そのたびに体重計は 同じ数字を表示し、 ついでに体脂肪32%と表示した。 妄想のなかの自分とは 随分な開きがあった。 エクレアを食べ終わると 檜葉ヨリコはPCの電源を入れ、 毎日更新している自分のブログの 管理ページを開いた。 檜葉ヨリコはブログでは 「エクレア」と名乗っていた。 ブログのタイトルは 「毎日を輝やかせるために 本当の自分に出会いたい! エクレアのブログ」 という。 エクレアは20日前、 小説家になる、と宣言し、 【今日は6枚書きました。 だんだんと展開が複雑になって ちょっと難航していますが、 こんなことではめげません。 毎日を輝かせるためなら、 これも楽しいと思えます】 などと綴っていた。 しかし、檜葉ヨリコの中では だんだんと「小説家」になるという熱も冷めてきた。 ただ、エクレアだけが妄想をやめない。 エクレアは小説を書くことよりも、 イケメンな編集者と打ち合わせをしたり、 新作発売のため、雑誌の取材を 豪華なホテルの部屋で受けたりという 華やかな場面ばかりを妄想し、 それを実現させようと檜葉ヨリコに 「道具」としての小説を書けという。 ある日、エクレアはブログに 名だたる文学賞の名を連ね、 どれに出そうか、迷っていますなどと ノンシャランと書いた。 おそろしいほど傲慢な記事だった。 エクレアにとって、もはやブログは 無限に妄想を発信し続けられる 夢の小部屋のようになっていた。 ここに来れば、檜葉ヨリコは エクレアとなり、なんでも実現可能な キブンとなるのだ。 いわばブログは訪れれば 常に主演を張れる 檜葉ヨリコの劇場であった。 今日はまだ更新していなかった、と 檜葉ヨリコは記事を書き始めた。 さっきの妄想を書いた。 「アルバイトを探してみようと思います。 小説を書いているといっても、まだそれが 収入の道になるには時間がかかると思うので。 とりあえずは料理の腕を活かして働けるcafeか ダイニングバーに問い合わせてみるつもり。 ランチタイムで働けるといいけれど、 でもまあ、夜に働くのもいいかな? 新しい経験は小説のためにも良いはず!」 記事をアップし、PCを閉じた。 ひどい疲れが全身を覆っている。 腹の贅肉は重く、見回すと 部屋は散らかっていた。 檜葉ヨリコはよろよろと立ち上がり、 台所へ、甘い菓子を探しに行った。 【fin】
by houki666
| 2014-04-13 08:52
| 10行de話(あなたの隣に)
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